株主優待制度は企業が自社の株主に対して自社サービスや自社製品を提供することで会社への理解を深めたり、投資家を自社のファン化して、商売につなげたり、安定株主になってもらうことなどを目的としています。
日本で独自に行われている制度で海外企業だとあまりこうしたものは目にしません。
2017年9月末の時点で、上場企業3723社のうち1368社が株主優待を実施しているそうで、かなり多くの企業が制度を設けています。
その一方で、「株主優待のタダ取り」と呼ばれるような方法が横行していることから、企業はその対策として「長期保有の前提」を付ける会社が増えてきました。そんな背景を探っていきたいと思います。
株主優待のタダ取り(つなぎ売り)とは?
ネットで「株主優待 つなぎ売り」と検索すると色々な情報が引っかかってきます。
いずれも、株主優待をわずかな手数料(コスト)で手に入れることができて大変お得といった内容で書かれていると思います。
当該企業の株を「現物買い」+「空売り」をすることによって権利落ちの影響を受けることなく、売買手数料+貸株料の負担のみで株主優待を手に入れることができる方法となっています。
仮に5000円相当の優待株を500円程度の手数料で権利を手に入れることができれば差引4500円ほどの儲けになります。
まぁ、そんな方法です。場合によっては高額な逆日歩が発生することもあるのでノーリスクってわけではないのですが、今回の話と少しそれていきますので、そのあたりは別の機会に紹介したいと思います。
企業が“つなぎ売り対策”を始めています
信用取引を利用した、株主優待のつなぎ売りは、投資家や売買手数料を稼げる証券会社にとってはいいことかもしれませんが、優待品を負担する企業にとって、溜まったものではありません。
優待品の費用や発送費用などもバカになりませんし、そうした投資家は「その日、一日限り」の株主に過ぎず、その企業のファンになってもらって、安定株主になってもらうという目的も果たせません。
そもそも株主優待は、日本企業独特のもので、海外企業にはありません。
制度的に「小額投資家」が有利になるように設計されているものですから、ファンドなどの機関投資家からの評判はすこぶる悪いです。
その為、目的とする効果が果たせないのであれば「廃止」ということも考えられるわけですが、企業によっては株主優待を目的として投資をしている(保有している)個人投資家も多く、優待の廃止は株価へのインパクトも大きいです。
その為の苦肉の策となるのが「長期保有を前提とする株主優待」への変更です。
これまでは株主優待は配当金と同様に「権利確定日時点の株主」に分け隔てなく提供するようになっていました。
これを「半年以上(過去2回の株主名簿の記載されている)株主」といったように制限を付けるようになってきました。
昔からそうした会社はありましたが、それは長期保有の株主を優遇する者でした。それが近年の傾向では、短期間の株主に対してはそもそも優待を提供しない(つなぎ売り株主の除外)という方向になってきた感じです。
この流れは今後より広まっていくものと思われます。
ブログやSNSなどの個人が情報発信できる媒体が増えたことで、一昔前は知っている人だけが使っていた技(?)がだれでも使えるようになってきました。
そうした状況で制度上の穴を見過ごし続けると食い物にされてしまいます。少なくとも、空売りを利用して株主優待だけをタダ取りするようなことは今後やりにくくなるでしょう。